皆様こんにちは!歯科衛生士、後藤です。MFTの部屋をご覧頂きありがとうございます。前回はMFTの目標と症状、なぜMFTが必要なのか?といった内容で説明しました。
このブログを通して皆様に少しでもMFTを知ってもらい、『口周りの筋肉を鍛え、正しい使い方をすることで健康になりましょう』という想いで書いています。MFTの部屋が皆様の健康のお役に立てることを願っています。
さて、今回の内容は『 呼吸 』についてのお話です。
MFTの4つの目標の一つ目、 ’’鼻呼吸を常に行える様にする’’ と前回にお話をしましたが、なぜ鼻呼吸が大事で、MFTと関係があるのかを今回は説明します。目標の2つ目、”口を閉じること” は鼻呼吸をできることが前提になります。口を常に閉じるには鼻呼吸をすることが不可欠なのです。
鼻呼吸はとても大事な基礎になるので、今回の記事の内容は鼻で呼吸をする重要性を、より多くの方にお伝え出来たらと思います。
鼻呼吸(びこきゅう)・口呼吸(こうこきゅう) Nasal Breathing VS Mouth Breathing
文字通り鼻呼吸(びこきゅう)とは、鼻で呼吸すること。口呼吸(こうこきゅう)とは、口で呼吸することを意味します。呼吸は鼻と口を使ってできますが、常に口で呼吸できるのは、哺乳類ではヒトだけに限られています。
「それなら犬はどうなの?犬も哺乳類だけど口でハァハァ呼吸をしているのではないの?」と思われるでしょうか。犬が口でハァハァしているのは、呼吸のためにしているのではなく、汗腺がない為に、体温調節をしているだけなのです。
ではなぜ『ヒト』だけが口で呼吸できるのでしょうか。それは、人間特有の成長過程に違いがありました。
口呼吸の始まり
生まれたての赤ちゃんは鼻でしか呼吸はできません。しかし一歳頃になると口で呼吸ができるようになります。なぜかというと、1歳頃になり言葉を習得し始めると、食道(口からの道)と、気道(空気の道)の構造が変わり口で呼吸ができるようになるのです。この頃に舌の位置にも変化が起こり始めます。(舌の位置に関しては今後のブログで詳しく述べていきますね。)
赤ちゃんは、口で呼吸ができることを覚えると嬉しくて一生懸命、口で呼吸をしてしまいその結果、口呼吸の癖がついてしまうのです。「口呼吸も鼻呼吸も呼吸ができるのだからどちらも同じでしょ?」と疑問に感じる方がいらっしゃるかもしれません。しかしこれは大違いです。口呼吸を続けていると身体に様々なトラブルを招きます。
みらいクリニックの今井一彰先生は、「口で呼吸することは鼻から食べ物を食べてるのと一緒だ」と指摘されています。鼻で呼吸することは、本来は私たち人間にとって当たり前のことなのです。
しかし日本では口呼吸が健康に害を及ぼすという認識が欠けています。自分自身が口呼吸をしているという自覚すらないことも見受けられます。
前述しましたが、MFTを行うにあたり鼻呼吸は基本になります。本来、当たり前のようにしているべき鼻呼吸の重要性や、様々な弊害のある口呼吸との違いをこれからご説明していきますね。
鼻の役割 Nasal Function
知っておいていただきたい一つのポイントは、鼻の仕組みと機能です。現代のように空気が様々な有害物質で汚染されていると、鼻からも喉からも多量に毒物が入ってきます。鼻はそれらの空気中に含まれる毒物を消化、解毒してくれます。身体を守ってくれているのです。
ではどのような働きがあるのでしょうか。
1.フィルター作用 Filters
鼻の中は微細な線毛の生えた粘膜で覆われています。これが吸い込んだ空気を浄化し、きれいにします。
2.加湿作用 Moistens
鼻の中には副鼻腔(ふくびくう)という空洞があります。そこで吸い込んだ空気が乾燥したままだとバイ菌が入り込みやすいため、湿度を与えバイ菌が体内に入り込むのを防いでくれています。
3.温める作用 Warms
鼻は吸った空気を温める作用があるので気道が(喉の奥にある空気の道)冷えることなく守られます。鼻は ”加湿器付きの空気清浄機” なのです。アレルギーや喘息もちの方が高価な掃除機や寝具を購入するが、最も重要な『鼻呼吸をする』という意識がないことを残念に思います。
4.抗炎症作用 Anti-inflammatory
鼻呼吸をすると一酸化窒素が作られます。一酸化窒素は副鼻腔(鼻の空洞)でしか作られないため口呼吸では起らないことです。一酸化窒素がどう作用されるかというと、抗炎症の役割を果たしてくれます。つまり鼻で呼吸をして一酸化窒素が送られるとアデノイド(※鼻の突き当たりの組織の腫れの事)や扁桃腺(※喉の奥の両側にある組織)の炎症を抑えてくれるのです。
4つの作用に加え、鼻はにおいを感知する嗅覚という機能があります。
嗅覚は神経系から見ると運動、情動、感覚、記憶、思考、創造、言語といった機能をつかさどっています。嗅覚は生きる上で重要な感覚器官であるのです。
鼻の役割はまだたくさんありますが、今回はここまでにして、続いて口呼吸についてお話していきます。
口呼吸 Mouth Breathing
鼻には浄化作用があると前述しましたが、口にはその作用がない為、吸い込んだ空気はそのまま肺に入り体内に行き渡ってしまいます。よって、口で呼吸すれば空気中のウィルス、細菌、汚れ、花粉などが容易に入り込み、喉は攻撃を受けます。そして喉にウィルスが付着して、喉は腫れ、様々な病気を発生させます。
鼻の機能の低下
よく『鼻がつまっていて口でしか呼吸ができない』という方がいますが、これは逆な場合があります。鼻呼吸が出来ていた幼少の時に口呼吸を続けていた結果、鼻が使えなくなってしまうのです。口で呼吸をし、鼻から空気を通さないでいると、鼻の機能の低下を招きます。私たちのあらゆる器官は、使わないと機能が衰えることはご存知でしょうか?筋肉も使わないと衰えていきますよね。それと同じことなのです。鼻も同じで使わないでいると、鼻には汚れだけがたまってしまいます。空気を出し入れする動作によって、鼻の働きを活性化させる上でも重要なのです。
酸素の吸収率
そして鼻呼吸と口呼吸の大きな違いの一つに、酸素の吸収率が違うことが挙げられます。鼻呼吸の方が口呼吸に比べて血中に酸素を送ってくれます。口呼吸により十分な酸素が送られないと、睡眠の質が落ち、日中も疲れやすい、気力が出ない、また子供の場合、脳の発達に影響がでる。学力の低下。等報告されています。
“The children do not sleep well at night due to obstructed airways;this lack of sleep can adversely affect their growth and academic performance. Many of these children are misdiagnosed with attention deficit disorder(ADD) and hyperactivity.”
(口呼吸による睡眠不足が原因で学力の低下が生じ、多くの子供たちは注意欠如障害、多動性障害と誤診されている。)
Gen Dent.2010 Jan-Feb;58(1):18-25
ここまでで(少しですが)口呼吸から鼻呼吸に変えるべき理由をお分かり頂けましたでしょうか?最後は口呼吸を続けた場合の顔貌、骨格の変化についてお話しします。口呼吸は身体の内部のみに影響するのではなく、お顔などの外見にも大きく影響してきます。
ではどんな風に変わっていくのでしょうか。
口呼吸の影響 The Effect of Mouth Breathing
子どものときに口呼吸を改善しないと、以下のような影響が起きると考えられます。
- 顔(骨格)は垂直的に細長く伸び、下顎は後ろに引かれる
- 上顎のアーチが狭窄(きょうさく)してくる(上顎がVの字の形になる)※図3参照
- 不正咬合を招く
- ガミースマイル(※笑うと上の歯茎の大部分が見える状態)
- 無気力な顔貌になる
- 口が開き、舌が下がり、気道が狭くなり、姿勢が悪くなる
- 睡眠時無呼吸症候群になる
- 虫歯や歯周病になりやすくなる
※睡眠時症候群は口呼吸とダイレクトにリンクしていると最近では言われています。
Mouth breathing causes a dry mouth,which creates an ideal environment for bacteria to multiply,leading to gum disease and teeth decay.In addition,children who habitually breathe through their mouths have a far greater likelihood of developing crooked teeth.
(口呼吸は、口の中の乾燥の原因となります。これは細菌が住みつくのに理想的な環境なので、歯周病や虫歯の原因にもなります。習慣的に口呼吸する子供は歯並びが悪くなる可能性がずっと高くなるのです。)Dr Flutter,J.,The Negative Effects of Mouth Breathing,Brisbane
口呼吸を放っておくと、これらの問題が起こる可能性があります。なぜなら口で呼吸をすることにより、口が開き、口が開くと舌が下がります。すると、口周りの筋肉が弛緩され顔全体の筋肉も衰えてきます。筋肉が使われず衰えていくと、口周りの機能がどんどん低下され、このような変化が起きてくるのです。
図1は、鼻呼吸と口呼吸の顔貌の違いを表しています。上段が鼻呼吸、下段が口呼吸です。骨格の形・目の垂れ下がり・頬骨・鼻の骨の形・顎の骨の形、位置・気道の大きさ・歯並び、それぞれの違いを比較しています。
図1
図2は、実際の口呼吸を続けた方の外見の変化を見たものです。1番左が10歳の頃、右側の2枚が17歳の頃の斜めと横から写した顔写真です。(同一人物です)図1の下の図のように、目、頬、唇は垂れ下がり、顎の成長も下方に伸び、顎が下がっている状態が見てお分かりだと思います。この方が鼻呼吸をし、MFTをやっていたら容貌は変わっていたのかもしれません。
図2 ※Dr.John Mew’s Patient, David
図3は(左図)理想的な形をした上顎の歯のアーチと、(右図)内側に入り込み、狭窄(きょうさく)している上顎の歯のアーチです。右図は、アーチが狭くなり歯の並ぶスペースが確保されず、ガタついているのがよくわかります。
図3
MFTで正しい筋肉の使い方をトレーニングする事によってこれらの予防、改善が可能になります。
※アレルギー、扁桃肥大、アデノイドなどがあり鼻呼吸が困難な場合は耳鼻咽頭科や医療機関の連携を図る必要もあります。
鼻の機能や口周りの筋肉は使わなければどんどんダメになる、というのが私たち人間の身体の大きな特徴です。それぞれの使い方を正しくトレーニングし、より一層生活の質を高めて健康になって頂きたいと思います。まずはご自身が口呼吸か鼻呼吸か意識し、自覚をしてみて下さい。
しっかり鼻で呼吸できるかチェックするとっても簡単な方法がありますのでお教えしますね。
〈簡単にできる鼻呼吸チェック法〉
くちびるをしっかり閉じ2分間鼻だけで呼吸をする。
これだけです。 これができれば、常に唇を閉じ、鼻で呼吸する事はMFTの訓練により可能です!是非試してみて下さいね。
以上、鼻呼吸、口呼吸についてでした。最後まで読んで頂きありがとうございました。
歯科衛生士 後藤